現在、新型コロナウイルスの影響拡大により、関係各所に多大な影響が生じており、当事務所にも多くのご相談をいただいております。 その中でも、労務管理に関わるご相談の主なものを、ご紹介致します。
Q 企業内で新型コロナウイルスによる感染者が出た場合や、企業が入るビル内で感染者が出た場合、さらには新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言がなされた場合などにおいて、感染症の拡大防止を図る観点から、従業員に対し、帰宅命令や自宅待機命令を発することはできますか?
A 企業内で新型コロナウイルスによる感染者が出た場合や、企業が入るビル内で感染者が出た場合、さらには新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言がなされた場合などにおいて、感染症の拡大防止を図る観点から、安全配慮義務の一環として、帰宅命令や自宅待機命令を発しなければならない場合もあります。そのため、企業としては、緊急時には、必要な情報を収集して、適時適切な判断の下、速やかに従業員を自宅に帰宅させ、あるいは出勤させずに自宅待機を命じることが相当だとの判断に至れば、速やかに帰宅命令や自宅待機命令を発することになります。
Q 新型コロナウイルス感染症の拡大により、原材料の仕入れも困難な状況になっており、工場の操業ができないため、やむを得ず従業員に関して、休業を実施しようと考えていますが、賃金の支払義務や休業手当の支払義務はありますか?
A 休業を実施する場合の賃金支払義務は、休業の原因によって結論が変わります。 ただし、法的な支払義務にかかわらず、企業のキャッシュフローと、従業員の生活確保の視点から、バランスの取れた対応を行うことが肝要かと思われます。
<休業が不可抗力に基づく場合>
休業が不可抗力に基づく場合、企業には従業員に対する賃金支払義務はなく(民法536条1項)、休業手当の支払義務(労働基準法26条)もありません。なお、厚労省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」によれば、不可抗力とは、次のとおりとされています。
- ■その原因が事業の外部から発生した事故であること
- ■事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
したがって、その判断に当たっては、①当該取引先への依存の程度、②他の代替手段の可能性、③事業休止からの期間、④使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、判断する必要があります。
なお、上記厚労省Q&Aによれば、「例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。」とされています。
<休業が経営、管理上の障害に基づく場合>
休業が、使用者側の領域において生じたといえる事由(経営、管理上の障害)に基づく場合、企業には100%の賃金支払義務があるとはいえませんが(民法536条1項)、少なくとも平均賃金の60%の休業手当(労働基準法26条)を支払う必要があります。親会社の経営難のための資金・資材の入手困難等が、使用者側の領域において生じた事由に該当するとされています。
<休業が事業者の故意・過失に基づく場合>
休業が事業者の故意・過失又はこれと信義則上同視すべき事由に基づく場合、就業規則に特段の規定がない限り、会社は原則として従業員に対する100%の賃金支払義務を負います(民法536条2項)。
なお、この民法536条2項の危険負担の規定は、任意規定であり、特約によりその適用を排除することができます。 ただし、就業規則により、民法536条2項の適用を排除する場合であっても、労働基準法26条の規定は強行法規ですので、平均賃金60%相当の休業手当の支払は必要です。 これらを踏まえて、就業規則において、「会社都合による休業の場合は、平均賃金の60%のみを支払う」旨の規定を定めておけば、原則として会社は平均賃金の60%相当額の賃金支払義務しか負わないことになります(ただし、横浜地判平成12.12.14労働判例802号27頁では、労働条件の不利益変更についての合理性が否定され、民法536条2項により100%の賃金の支払いが命じられていますので、注意が必要です。)。